京都講演会の報告

 2014年12月16日、京都市国際交流会館において開催致しました水循環基本法に関する技術講演会は、京都、大阪、奈良、兵庫や、岐阜、埼玉、東京都からご参加頂きました。ご参加いただきました方々の業種は多種多様で、設計コンサルタント業、地質調査業、測量設計業、建築設計事務所、浸透製品メーカー、行政担当課の皆様です。


 当日は、午前中、当研究会による「土壌浸透手法による治水対策の効果、及び、設計、施工事例について」ご紹介、午後からは、宮崎毅先生(東京大学名誉教授)、西村拓先生(東京大学環境地水学研究室教授)をお招きし「土と地水の役割,及び、土壌への雨水浸透メカニズムについて」と、「ディスクパーミアメータによる土壌の透水速度測定方法について」ご講演頂きました。


 今回は、関東地域、中部・東海地域に続き3回目の開催でしたが、研究開発された技術や効果、浸透メカニズム、現地土壌特性を精確に知るための調査方法など、各講演内容は、土壌物理学視点に立ち科学的根拠に基づく解説もしていただきました。参加された皆様、最後まで、ご清聴頂きまして誠にありがとうございました。

 

〈質疑応答内容〉

 

Q:現在、桂川流域の洪水対策は、全て貯留方式が取られている。土壌浸透貯留方式や、流出抑制効果について始めて知ったが、この流域でも設置可能か、また、設置する場合に、行政はどのような事を指導されているのか

A:日本の地質は、ローム層、沖積土や、洪積層などが代表的で国内に広く分布している、その形成過程により構造も複雑で土壌特性も異なる。現地調査を実施 して土壌特性を知ることが大切です。土壌により透水速度や、間隙率がことなりますので全て浸透処理が可能であるとはいえません 沖積層、洪積層は、透水性 が悪く浸透処理には不向きな地質もあります。(宮崎先生)


A:千葉県では、平成15年に宅地開発等に伴う雨水排水・貯留浸透計画を策定、発刊しましたが、現在、県条例化はされていません。しかし、その内容は、調 整池方式、貯留浸透方式の何れか選択できるように改正されており、地下水位、飽和透水係数などを把握するための現地試験を実施、その値を基に、施設計画を 策定し開発申請を提出します。確率年1/50を適用、地域ごとに定められた時間降雨強度において、計画地からの流出量を浸透処理できる施設規模を確定しま す。
 その他、施設構造、単位時間あたりの降雨量、浸透量、貯留量、流出量などの厳密計算書を作成して提出します。その施設計画を審査し、計画が適切であれば開発が許可されます。施設には全て、FF対策施設を設けるよう指導されます。
 しかし、現状は、洪水対策量を分散貯留する計画が多く見受けられます。(宮澤)


Q:新設道路の設計をしているが、地下水涵養施設を設けなければならない、この場合もファーストフラッシュ対策は必要か

A:地下水涵養施設は、機能を継続させるためにFF対策施設が必要です。特に新設道路などの場合は、アスファルトコンクリートを使用するため、初期降雨 時、SSや油分が流出します。このSSや油分が土壌に流入すると、浸透能力を低下させる他、土壌汚染や、地下水汚染に繋がる心配があります(宮澤)


Q:火山灰堆積土壌の浸透能力は地域により異なるか

A:火山灰堆積土壌は、九州地方にみられるシラス、関東地方に多くみられる関東ロームが代表的ですが、その組成は、ガラス質が多く、粒径や、体積密度によ り、間隙率が異なります。また、地域により、層の厚みも異なります。そのために、透水速度や保水能力も異なります。(宮崎先生)


Q:土壌構造の異なる場合、その土壌の浸透処理能力が異なる要因はなんですか

A:土は、多かれ少なかれ団粒構造を有しています。団粒構造が発達しているかどうかが、透水性、保水性に影響します。関東ローム層の自然堆積した部分の固 相は小さく、間隙率は大きく80%もありますので、透水性、保水性に優れ、良好な土壌と言えます。それに比べて、マサ土の場合は、固相が大きく、ロームに 比べて間隙率は小さく50%程度しかありません。透水性は、悪くありませんが、雨水が浸透すると地下水位が上昇し易い傾向があります。これは、固相率が大きく、間隙率が小さいためです。(宮崎先生)


Q:広島や関西地域の地質は、マサ土が多く分布、奈良県もマサ土が多い、このような、マサ土分布地域の調査研究経験はありますか

A:私は、以前、香川県の農林水産省四国農業試験場の研究員時代にマサ土についての調査研究もしておりました。(宮崎先生)


Q:今後、ローム以外の土壌を研究する予定は、ありますか

A:大変うれしいご質問ですが、私は、数年前に退職しましたので、研究する予定はございません。研究が必要な時は、現職の西村先生にお願いをしたいと思います。(宮崎先生)

 


Q:当社は、貯留浸透槽や、浸透マスなどの製造、販売をしておりますが、宅内浸透マスを設置する場合もFF対策施設は必要ですか、また、浸透マス設置時、どのようなことに注意すべきでしょうか

A:住宅の場合は、その立地条件により、生産工場や焼却場、近隣道路からの粉塵が屋根面に堆積、しますが、この粉塵は油分が含まれています。初期降雨時、 浸透マスに流入、堆積します。マスの構造にもよりますが、底盤のない全透式や、ポーラスコンクリート式のマスは、前処理施設と言いますが、FF対策を講じ ないと、2年程度で機能しなくなりますので必ず必要です。設置時の注意点は、マスの底盤部分が自然堆積土壌か、盛り土か判断、盛り土であれば浸透効果は期 待できません。また、掘削時、底盤面を攪乱しないことです。攪乱した場合は、土壌改良が必要です(宮澤)


Q:表土の透水速度と、その下の不透層までの透水速度の数値は異なるのではないか

A:不透層にいたる地層の構成、条件により異なります。先ほどの説明は、斜傾地の降雨量のうち、表面流出量、浸透量は、表層土壌透水速度を知ることで算定 できるということです。条件の異なる中間層の透水速度を知りたい目的はなにかがわかれば、必要な部分の測定試験により数値は得られます。(西村先生)


Q:埼玉県深谷市の同じ畑地で、場所により透水能力が異なる原因はどうしてですか

A:深谷市は、有名な葱の産地ですが、この土地の畑地の表土は、人為的に攪乱されており、攪乱されていない部分とでは、透水能力が異なります。特に耕作機械の走行履歴や耕起部分の回転数が土の攪乱状態を変え、場所による透水能力の差が出ます。(宮崎先生)



Q:道路、宅地での浸透施設の維持管理は、どの程度の頻度で実施すれば浸透能力を継続することができますか

A:道路の場合は、市街地と、山林、畑地が多い地域では、土砂などの堆積量は異なります。宅地の場合も同様ですが、宅地の場合は、年2回のメンテナンスが されています。業者に委託する場合は、年間1万円程度の費用が必要です。メンテナンスの時期は、梅雨の後と、秋雨前線、台風時期の後に実施しています。現 在、機能低下は見受けられません。道路の場合は、ほとんどが維持管理されていません。千葉県の広域農道では、設置後5年間ノウメンテの結果、貯留浸透槽が 浸透トレンチ取り出し口の上部まで堆積し、機能しなくなりました。現在は、堆積土砂を搬出し機能が回復しています。(宮澤)


Q:水循環基本法の施行により、雨水処理手法はどのように変化をすると思うか、又、今後の土壌浸透貯留手法の展望についてもお聞きしたい

A:水循環基本法は本年7月1日施行されました。同時に雨水利用促進法も施行されています。
 今後、この法令をどのように解釈し、各自冶体が条例化するのか、又、条例化された場合は、どのような運用をされるのか、地域、流域にもよると思います が、基本法に基づいた対応、対策がされると思います。法令は、水循環、浸透について明記しています。健全な水循環の回復は、土壌の存在なくして、達成する ことはできません。今後、雨水排水処理手法は、土壌浸透手法が主流になると考えています。この手法は、正確な現地土壌調査方法により土壌特性を把握、設計 に反映することが重要となります。(宮澤)


Q:ディスクパーミアメータによる測定試験は、負圧によりマクロポアの影響を受けないので、土壌部分の透水速度を精確に知ることができるとの説明であったが、地下水帯までの地層、地質が異なる場合でも、負圧による試験方法は対応可能ですか

A:目的により、正圧による試験方法もいくつかあります。正圧による不飽和帯の測定試験方法は、マクロポアの影響を受けます。ディスクパーミアメータは、 負圧にすることで、不飽和帯のマクロポアに試験水が入らない測定方法です。そのため、マクロポアの影響を受けないので、土壌部分だけの精確な透水速度を得 ることができるのです。(西村先生)


Q:ガラスカレットを使用する場合、粒径は、何ミリが効果的でしょうか、又、間隙率はどの程度、見込むことができますか

A:火山灰土壌の発生土に配合、使用する場合は、粒径3mm~5mm、配合比率は50%が限度です。
 礫材の代替え品として、埋め戻しに使用する場合は、微細粒径(0.5mm以下)の使用は危険なので使用しません。間隙率は、0.3~0.35です。(宮澤)


Q:微細粒径を使用すると危険なのは、どうしてですか

A:粒径0.5mm以下の場合、水と接触することでアルカリが溶出し、土壌のPhが変化、アルカリ側に傾きます。そのために、植生などに影響を与え自然形態を変えてしまう恐れがあるからです。微細粒子になるほどアルカリ濃度は高くなる傾向を示します。(宮澤)


Q:宅地開発をする場合、貯留浸透手法による流出抑制施設を設置する場合の注意点はどこか

A:浸透マスの設置時の注意点と同じですが、宅地造成時に、宅盤を調整することが多く、その方法は、ほとんどが盛り土をして、仕上げられています。盛り土部分は浸透効果が見込めません。
 さらに、切り土部分(自然堆積部分)と盛り土部分の間に水道が発生、降雨のたびに成長、突然沈下する危険があります。また、重機により掘削した底盤は、 転圧や機械による整形は禁物です。また、人力による作業で踏み固めしないよう注意が必要です。設計時、使用した飽和透水係数が変化し、設計浸透処理量が減 少、表面流出が発生する可能性があります。(宮澤)